炎のおっさんアワー

佐藤千也子 著『オッサンの壁』(講談社現代新書)
ミラッキ 2026.02.17
誰でも

4年という月日を「あっという間」という人がいますが、

それはあくまで「時の感じ方」の話。

4年前の詳細を覚えているかというと、そういうものでもありません。

2022年のこの出来事を覚えているでしょうか?

当時の吉野家の常務取締役が

社会人向けに行われた「デジタル時代のマーケティング総合講座」で、

若い女性層に吉野家を継続利用してもらう戦略を「生娘をシャブ漬け」などと表現。

「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする」

「男に高い飯をおごってもらえるようになれば牛丼は絶対食べない」といった発言をした、

という話題。

当時、憤りを覚え、「もう吉野家には二度と行かない!」と宣言した人も

この出来事をすっかり忘れたり、「もういいだろう」と解禁したりしている頃だと思います。

私はというと、松屋が好きです。

この出来事に私は、日本のリアルを見た気がしました。

この人が吉野家という全国的に有名な企業の常務取締役になることができ、

社会人向けに「デジタル時代のマーケティング総合講座」を開ける。

受講者を前に、このようなことを平然と発言できる。

部活や学校での「意味ある?」という厳しい指導について

異議を唱え、自由を訴えると

「そんなことでは社会に出た時、やっていけない人間になる!」

という方たちが登場します。

「まさにおっしゃる通りだな!」と思わせてくれたのが

「吉野家、生娘シャブ漬け騒動」でした。

このマインドの人が就職し、活躍し、役職に就く。

一般的に”社会”と呼ばれる場所でやっていける。

「ああ、たしかに俺はこういう人が上に行ける世の中で

 うまくやっていけるわけないわ!」

「部活内の暴力程度で不平を言っていたら、何もできないな」

と思わせてくれる出来事でした。

「こういう人ばかりではない」

「こういう人ばかりでは、それこそ社会はまわらない」

それもその通りでしょう。

ただ、そうではない人たちが個々に(労働者として連帯することなく)

泣きながら、痛みながら、

どうにか世の中をまわしてるようにしか思えません。

「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を

 無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする」

「男に高い飯をおごってもらえるようになれば牛丼は絶対食べない」

”現場で働く人たちが怒りを覚えてストライキする”なんてことが

絶対起こらないから、こんなことが平然と言える。

社会人向けに行われた「デジタル時代のマーケティング総合講座」です。

「クローズドな場所だから言った」というものではないでしょう。

発言主はおそらく、4年経った今でも

「ツイてなかった」「もうみんな忘れたころだろう」

としか思っていないのではないでしょうか。

繰り返して言っておきます。私は松屋が好きです。

忘れてどうする、って話です。

「オッサンの壁」の著者・佐藤千也子さんは、

「オッサン」を

男性優位に設計された社会で、その居心地の良さに安住し、

その陰で、生きづらさや不自由や矛盾や悔しさを感じている少数派の人たちの気持ちや

環境に思いが至らない人たちのこと。

男性優位がデフォルト(あらかじめ設定された標準の状態)の社会で、

そうした社会に対する現状維持を意識的にも無意識のうちにも望むあまりに、

想像力欠乏症に陥っている。そんな状態や人たち。

と定義しました。

「生娘をシャブ漬け常務」はまさにオッサンマインドのど真ん中。

この騒動は、講座の現場では問題にならず、

受講者とみられる人がSNSに投稿し、炎上したことで初めて明るみに出ました。

その場で「それ、どうなんですか」と言う人はいなかった。

偉い人には逆らわない、異論があっても言わずに

穏便にその場をおさめることを良しとする。

あれから4年経って、日本の空気は、企業内の空位は

少しは変わってきたでしょうか。

「今の時代はダメなんだろ?」

この言葉とともにブレーキを踏むオッサンが増えてきたかもしれないし、

たいして変わっていないかもしれません。

「いや、今の時代はダメ”なんじゃなくて、昔からダメなんですよ。

 これまでたくさんの人が涙を飲んできただけで」

「あなたも若い頃は飲み込んでいた側だった。

 今や立派なオッサンになって、飲み込ませているんですよね?」

と言いたい気持ちをグッと飲み込んで「ですよね~」なんて言って

その場を丸くおさめる。

うわ、またグッと飲みこんでる。

飲みこんだもの、飲み込んだことを忘れるために酒も飲んじゃう。

そして気づけば、いろいろ飲み込んでいるうちに「オッサン化」する。

「人手不足」「若い人が早いうちに退職する」というニュースを聞くたび

「言いたいこと言って、どんどんやめちゃえ!

 何かを飲み込ませられる前にやめちゃえ!オッサン化しないですむぞ!

 (どこでも働けるようにスキルだけは磨いておいてね!)」と思うのです。

怪獣「オッサン」たちの躍動によって

莫大な儲けが出ていたのはもはや遠い昔の話。

その人たちによって「オッサン」にされてしまった

悲しいオッサンたちとどう過ごしていくか。過ごさないのか。

「自分が生きているうちは無理だろう」と諦めるのか。

「それでも30年前と比べたら、だいぶ違う環境にいる!

 まだまだ変わる」と思うのか。

これからも、松屋の「牛めし」を食べながら、思いを巡らします。

無料で「ミラッキの思い出せない思い出」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら